優しさのゆくえ
花輪莞爾著
優しきK子に捧げる物語・・・若くして辛い聴力手術をうけながらも明るく賢い結婚生活をいとなみ、穏やかな老境に入る矢先、またも生死をわける大病と闘っている、昭和の優しい一女性のゆくえ……
フランス世紀末文学の研究者であり、「悪夢」小説を世に問い続けた小説家として芥川賞候補にも選ばれた著者が、愛する人を語る「最悪夢」の自伝小説
……どうしても言いたいことがある。これは一家庭の女性の記録といえば、いかにもおおげさになる。年号でいうのは嫌いだが、K子はやはり昭和としか形容しがたい激しい変動をどっぷりと生きていて、平成には見当たらぬタイプかも知れない。その模範ではないが一典型を、成功かどうかはともかく、書きのこしておきたかった。
作家・翻訳家。一九三六年東京生まれ。
1960年東京大学文学部卒業。1965年同大学院博士課程修了。國學院大學名誉教授。
フランス世紀末文学、とくにアルチュール・ランボーを研究。
一九七一年、「渋面の祭」「触れられた闇」が芥川賞候補作品となり、小説集『ガラスの夏』(角川書店)を刊行。
ほかに『埋もれた時』(河出書房新社)、『悪夢「名画」劇場(I)・(II)』(行人社)、この2点より抜粋した文庫本『悪夢小劇場(I)・(II)』(新潮社)、さらに集成として『悪夢百一夜』(ウチヤマ出版)。
『坂本龍馬とその時代』(新人物往来社)、『石原莞爾独走す』(新潮社)、『猫はほんとうに化けるのか』(徳間書店)、『海が呑む|3.11東日本大震災までの日本の津波の記憶』(晶文社)などがある。
翻訳としてJ・ヴェルヌ『海底二万海里』(角川書店)、F・ボワイエ『禁じられた遊び』(角川書店)、『ランボー全集』(共訳、人文書院)などがある。